東京地方裁判所 昭和60年(行ク)57号 決定 1986年7月03日
東京都板橋区永川町三四番一一号
申立人(原告)
猪股力
右代理人弁護士
山本裕夫
同
斉藤義房
同
下林秀人
同
川崎浩二
同
清水洋
東京都板橋区大山東町三五番一号
相手方(被告)
板橋税務署長
吉田和夫
右代理人弁護士
島村芳見
右指定代理人
棚橋新作
中川和夫
安達繁
主文
本件申立ていずれも却下する。
理由
第一当事者の申立て及び主張
一 申立ての趣旨
相手方は、別紙1記載の各回答書を東京地方裁判所に提出せよ。
二 申立ての原因
1 文書の所持
相手方は、申立人の取引先に対する昭和五二年分ないし同五三年分の売上が記載された別紙1記載の各回答書を所持している。
2 提出義務の原因
(一) 相手方は、その準備書面(六)において、右各回答書の存在と内容に言及し、これを引用した。
(二) 右各回答書は、申立人の租税債務という申立人・相手方間の法律関係につき作成されたものである。
3 提出命令の必要性
右各回答書により、申立人はその昭和五二年分及び同五三年分の売上金額を立証し、これによつて相手方の主張する右各年分の推計の必要性及び合理性がないこと、また申立人の主張する右各年分の売上の実額主張が正当であることを立証する必要がある。
また、本件の裁決が指摘する申立人の銀行口座への入金分が相手方の主張する同五二年分及び同五三年分の売上と重複するものであることを立証する必要性がある。
三 相手方の反論
1 相手方に提出義務のあることは争う。相手方は準備書面(六)において取引先に対する照会と回答について概括的に述べたことはあるが、個々の回答書を引用したことはない。申立ての対象である各回答書は相手方が自己使用に供するために収集した資料であるから、法律関係文書に当たらない。
2 提出命令の必要性があるとの主張も争う。本案訴訟において右各回答書の内容を集約した乙第三五号証が既に出されているところであり、また右各回答書が提出されたとしても、相手方の主張する推計の必要性、合理性に何ら影響を及ぼさないし、申立人の主張する実額計算が直ちに可能になる訳でもない。
第二当裁判所の判断
相手方が申立人の昭和五二年分及び同五三年分の差引収入金額を外注費等の額から推計し、これに当事者間に争いのない売上原価を加え、同五二年分の総収入金額(売上金額)を二一九四万二七五一円、同五三年分のそれを二三一一万四八六五円と推計によつて主張していること、これに対し、申立人が総収入金額の実額として同五二年分は二〇四一万〇八七八円、同五三年分は二〇七五万六〇四〇円と主張し、その明細の主張をしていたことは、いずれも本件記録上明らかである。
ところで、本案における証人広瀬孝幸の証言により、相手方が申立人の各取引先に対し申立人からの仕入金額を照会し、その結果得られた各回答書に記載の金額を要約記載したと認められる乙第三五号証が既に口頭弁論において提出されており、同号証には、各取引先毎に係争年分(昭和五二年分ないし同五二年分ないし同五四年分)毎の仕入金額(申立入の売上金額)が各回答書のとおり記載され、その同五二年分の合計金額は八六六万六四六五円、同五三年分の合計金額は八五六万六一九三円と記載されている。
そうすると、右乙第三五号証とは各取引先毎、各係争年分毎の売上金額が同一であると認められる別紙1記載各回答書が提出されたとしても、これによつて相手方による推計の必要性、合理性の主張、また申立人による売上の実額主張について、それぞれ新規の証拠となり得るとは考え難い。
また、本件において相手方が申立人の銀行口座への入金を売上金額として実額主張しているものでないことは明らかであるから、この点に関しても右各回答書の提出が必要であるとは認め難い。
そうすると、本件申立ては、その必要性を欠くものというべきであるから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。
昭和六一年七月二日
(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 太田幸夫 裁判官 加藤就一)
(別紙1)
文章の表示
一 別紙2の1ないし17記載の取引先から昭和五二年分の申立人の売上を明らかにするための相手方の照会に対し、相手方に提出された角回答書
二 同1ないし14、18ないし24記載の取引先から昭和五三年分の申立人の売上を明らかにするための相手方の照会に対し、相手方に提出された各回答書
(別紙2)
取引先一覧表
1 三安精機株式会社
2 株式会社高橋精機製作所
3 高明精機製作所
4 東亜精機株式会社
5 株式会社沢製作所
6 パイン工業株式会社
7 第一精機工業株式会社
8 有限会社高千穂精機製作所
9 株式会社日興精機製作所
10 飯塚敏正
11 株式会社興和精工
12 豊栄製作所
13 大貞研削
14 レツドメタル工業株式会社
15 有限会社城北精機製作所
16 有限会社大和製作所
17 有限会社江原精機
18 田中精工商会
19 有限会社田中測機製作所
20 浅田精密歯車株式会社
21 株式会社中川製作所
22 渡辺真澄
23 林歯科商店
24 山下義弘